2022年4月13日に、32ページのパンフレット「短歌・俳句・連句の会でセクハラをしないために」が届きました。そもそも、誰が何をするとセクシュアル・ハラスメントになるのでしょうか。
セクハラをする人とされる人のイメージは、けっこう固定しているかもしれません。けれども実際には、誰もがする人にもされる人にもなる可能性がある(しやすい立場とされやすい立場の不均衡が、もちろんありますが)のであり、誰もが当事者であると、パンフレットを読んで思いました。
このパンフレットは、連句人の高松霞さんを発起人とする同名プロジェクトに関して、2021年末におこなわれた下記リンク先のクラウドファンディングのリターンです。
https://readyfor.jp/projects/82245
プロジェクトの一環として、結社等の346団体へ、セクハラ問題への取り組みに関する要望書が発送されているとのことで、すでにご覧になった代表や窓口の方も多いと思います。送付先の団体名は、以下で公開されています。
https://note.com/kasumitkmt/n/nc0b214efb00b
プロジェクト関係者の方々と各団体とのやりとりは、現在まだ継続中のようです。私はTwitterでクラウドファンディングの情報を見かけて、パンフレットを読んでみたいという軽い気持ちで参加したところ、文字が大きく老眼にやさしい! のもさることながら、2019〜21年のネット調査「短歌・俳句・連句の会でのセクハラ体験談」にもとづく事例の紹介になるほどと思ったので、すこし抜き出してみます。
・「こんな作品を作っていたらモテないよ」と言われる
・「なぜ結婚しないの?」「なぜ子供を作らないの?」などと聞かれる
・年長者が若年者に対して「指導する」というより「黙らせる」態度をとる
・会合で、相対的に年の若い女性(会によっては中年以上の場合も)が準備や気づかいを求められる
同性間でもありうるし、パワーハラスメントとも呼びうる事例ですが、ともあれ特異とは言えない風景です。従来、前者2例の発言は親しみの表現、後者2例は習慣ととらえられてきた面があり、つつがなく楽しげなムードのなか、楽しくない人がいることに想像がおよびません。結果的にハラスメントとなる現象は、想像力のなさに多く起因するのではないでしょうか。
恋愛に関する短歌の作者がわかると他の人が茶化すので、その会で恋愛の歌を作ったり選んだりすることを避けている気がするという30代男性の報告もありました。セクハラが原因で作歌の幅を狭めたり、短歌そのものを辞めたり恨んだりということがあれば、結社なり短歌界なりにとっても損失ですよね。
歌会は職場などとちがって利害関係がなく、自由に話せる場だという解放感から、誰に何を言ってもよい気分になりそうですが、これは自由なつもりの状態にすぎません。たとえば若い女性の創作者が年長の男性から「子供を産むと作風が変わるよ」と言われた話をいまだに聞きますが、これは女性の可能性を出産としか関連づけない不自由な発想です。私生活に立ち入っても怒らなそうに見える相手を選んでいる可能性もあります。
自由って、何を言ってもよい相手を選ぶ作為や、相手の属性をくくる無神経さから免れて、相手との関係性を個々に見きわめられる想像力がはたらいている状態を指すのではないでしょうか。
そういう想像力が私にも十全にそなわっている……ことはなく、以前は「三十代になってから職場で若い女子の役割を求められなくなって楽だなあ(私の性自認は7割くらい女性です)、二十代の人もはやく三十代になりなよ〜」と考えていましたが、若い女子の役割が当時の二十代に移譲されただけだったことに気がついたのは、数十年後でした。
閑話休題。何をするとセクハラになるのか心配する心は、しでかして加害者と呼ばれたくない心、人生の失敗をおそれる心でもあるでしょう。しかし人に個性があるかぎり感じ方はそれぞれだからマニュアルはないのであって、とりあえず相手がいやがっていそうならその言動を止める・いやだと言われたら謝る・「悪意はなかった、親切のつもりだった」という自分の意図へのこだわりを捨てる、の3点を押さえればよいのでは? などとパンフレットを読みながら考えました。
言うまでもなく、セクハラをされた人が声を上げやすい環境も必要です。パンフレットには、若い女性が年長の男性に体を触られた、性的行為を強要されたという事例も当然あり、事態が犯罪に近いほど被害を申し出にくいことがうかがわれますので、まずは小さなことからでも相談できるよう、各会に正式な窓口があるとよいのですが、やはり利害関係のない場であるゆえ運営にたずさわる時間がなかなか取れないのも事実……。
文芸活動の自由さがセクハラの起きやすさにつながるようなところもあるので、まずは誰もがセクハラを「しないため」の心構えの周知を、ということで上記パンフレットが多くの歌人にも読まれることを願っています。
ですからウェブでも内容を公開していただいてよい気がするのですが(クラファンの出資者に気を遣わず)、そのあたりの今後の動向はわかりません。パンフレットが届いたころ、おりしもTwitterでは作家の山崎ナオコーラさんによってハッシュタグ「#文学界に性暴力のない土壌を作りたい」がもうけられました。
https://twitter.com/naocolayamazaki/status/1514498253488025601
また、それに関連して作家の桜庭一樹さんが「短歌・俳句・連句の会でセクハラをしないために」パンフレットに言及されていました。
https://twitter.com/sakurabakazuki/status/1515640119734128641
文芸、創作、アートにかかわる人すべてが当事者です。関心を。
プロフィール
佐藤弓生(さとう・ゆみお)
1964年、石川県生まれ。「かばん」会員。2001年、第47回角川短歌賞受賞。歌集に『世界が海におおわれるまで』『モーヴ色のあめふる』など、共編著に『短歌タイムカプセル』など。