作った歌をどこにどう書き留めておきますか、という些末なお話。
この人は一体いつまで折り畳み式携帯電話(ガラケー)を使い続ける気なのかという周囲の苛立ちを余所に、私が初めて所持したスマートフォンはiPhone8でした。それまで使っていたガラケーはメモ機能が秀逸で、作った短歌を書き(打ち)留めておくにはぴったりの使いやすい端末でした。なんだったら自分は、今からでもガラケー生活に戻れるものなら戻りたいと思っているくらいです。(もちろんしませんが)
今、作った短歌を記録するのに使っているのは、スマートフォン用の日記アプリ「My日記〜寝る前の5分間日記帳〜」です。これはこれで使いやすく、カレンダー枠に歌やらメモやら写真や音声データやらを放り込んで保存しておけるものなので、思いついたことや気になったものを記録しておくのに便利です。ダウンロードしたアプリケーションをそのまま使ってもいいのですが、画面上に広告がちゃかちゃか表示されるので、広告削除の月額料200円を支払っています。日記アプリはその検索機能に満足しています。昨日どんなメモを残したか、ひと月前には、また一年前にはどんな歌を書いていたかが一瞬で分かり、言葉自体の検索ももちろん出来ますから、自己模倣に堕していないかという視点が自然と働きます。
手帳にペンで書いておくことはしていません。
携帯端末であるていど形が見えたものは、パソコンで管理すべくキーボードで打ち込みをします。この過程では推敲のフィルターが強く働きます。伝えたい内容と表現との整合を図るためだけに脳を機能させる時間は心地よいものです。連作を組んで発表する歌は既出用フォルダに複製します。こうしてみると、私は歌の保存の過程には、歌を濾過するような、推敲の機能も同時に働かせていることが分かります。この辺はもっとスマートに管理されている方が多いのでしょうが、あえて手間をかけて歌作を楽しんでいます。
それにしても、あの折り畳み式携帯電話をかぱっと開き、起動音とともにメモ機能を開けて歌を打ち込んでいた感覚は今に忘れがたいものです。それらが全て片手で出来ていたのも快適で、昔の漫画で言えばコブラが、昔のゲームで言えばロックマンが、その片腕の銃砲で悪漢をなぎ倒していくかのようなスピード感を歌作りの日々に味わっていたように思います。現在使っている端末はiPhone13 mini。とはいえガラケーよろしく歌を片手で打ち込めるほど使い勝手がよいものではなく、どうにも進んだ老眼の所為で、眼鏡をいったん外すという所作も加わってしまいました。
歌を上手に管理していく。その人なりのこだわりが詰まった営為なのかとあれこれ思いつつ、誰かとゆっくり話してみたいと思うものです。
プロフィール
目黒哲朗(めぐろてつお)
1971年長野市生まれ。歌集『CANNABIS』(不識書院)、『VSOP』『生きる力』(本阿弥書店)がある。